「ブラック・スワン」ナシーム・ニコラス・タレブ 書評
「ブラック・スワン」上下巻読了後の感想。
ナシーム・ニコラス・タレブ「ブラック・スワン」は、タレブ氏が、現在の金融工学を中心とした数理系社会科学の問題点を激しく批判した書。
かなりの話題作らしく、タレブ氏は海外では人気者だそうだ。
確かに、本書は、やや脱線した記述も見られるが、全体的に読んでいて面白い上に、金融業界への鋭い批判があり、勉強になる。タレブの主張したいことは、タレブの比喩を使えば、「月並みの国」と「果ての国」を区別して、「果ての国」の現象に正規分布(ベル型カーブ)を適用してはならない、ということが主要になるだろう。金融の世界は、一度の極端な例外(株価の暴落など)によって壊滅的な被害を受けかねない分野であるにもかかわらず、金融工学で使用されるモデルは例外的事象に対応出来ない!この欠陥と、証券マンの運用成績は平均以下であるという様々な調査結果より、タレブは「金融工学の数式モデルは欠陥品」だと突きつけている。数式モデルを作っている経済学者、金融工学者は色々反論したいことはあるのだろうが、結局、本質的な反論は困難だろう。いくら、過去の現象をうまく説明できるようにモデルを改良し、高度な数学を使用して欠陥を見えにくくしても、新たな例外的事象が発生したときにその例外的事象を包括した理論が構成できている根拠はないのだ。そもそも、現代科学ですら複雑系の事象の予知は困難ないし不可能だというのに、人間が関わる経済事象についてモデルを作れば予知可能になるわけがないだろう。
私は、モデル化を否定するつもりはない。有用なモデルを作れば、少なくとも例外的事象以外であればある程度説明できるかもしれないし、そのような研究は続けて行けばいいと思う。しかし、正しさも不明なまま、経済の数理モデルを導いた学者たちにノーベル経済学賞が与えられ、そして後にモデルが破綻したりしていることを思うと、ノーベル経済学賞の意義を少し考えてしまう。もちろん、素晴らしい業績を上げた上で受賞されている方も多いとは思うのだが。