著作権侵害の非親告罪化は、大量通報祭りを引き起こしネット文化を崩壊させる
東京五輪について、佐野研二郎さん制作のエンブレムが盗作ではないかと話題になっている。
その中で、TPPによる著作権侵害の非親告罪化に絡めた議論をしている記事があった。
このあたりについては思うことが色々あるので、一度書いておく。
非親告罪化により想定される現象
以下に、著作権侵害の非親告罪化により(主にネットにおいて)起こりうることを列挙する。
- サイト、ブログにおけるTV・漫画・ゲーム・アニメ等著作物切り取り画像の大量自主削除と、削除漏れした画像への通報祭り
- Twitter、Facebookにおける上記著作物を掲載した投稿の大量自主削除と削除漏れ投稿への通報祭り
- Youtube、ニコニコ動画に投稿されている著作物および著作物の加工作品(MAD、ゲーム実況など)の大量削除と通報祭り
- 上記流れと関連して、特に漫画、ゲーム、アニメ関連画像投稿の大幅減少
- 2次創作などの文化崩壊による同人業界、コミケ業界の再編
これは、大げさと思う人も多いかもしれない。
いくら非親告罪化したからって、多数の通報など起きるだろうか?
また、警察がそんな通報を相手にするだろうか?
その疑問について考えてみる。
非親告罪になっても通報は多発しない?
非親告罪になったとして、一般人のどうでもいい投稿が通報されることはあるだろうか。
これに関しては、確かに「話題性のない」一般人の投稿に関してはそうだろうと思う。
しかし、これが「話題性のある」人であれば事情は全く異なってくる。
例えば、人気まとめサイト、人気アニメブログ、人気漫画ブログ、人気ゲームブログ。(著作権法の「批評性」を満たしていない)これらのサイト・ブログは、人気があるゆえに問題も多く、またアンチも多いものだ。このようなサイト管理人やブロガーに対して、非親告罪化が成立した瞬間より2chを中心とした勢力による通報攻勢が発生することは想像に難くない。
特に、嫌われているゲームブログである、「はちま起稿」や「オレ的ゲーム速報@刃」、嫌われているアニメブログである「やらおん」などは著作権侵害した画像が多数あると思われるので、通報活動が活発に行われると予想される。
また、ブログ運営者以外でも、SNSで活動している有名人(ネット上で人気があれば十分という意味で一般人も含む)についても、アンチを中心にした同様の通報活動が行われることが考えられる。
結論としては、無名の一般人による著作権侵害に対して通報されることはあまり無さそうだ。
だが、
などについては、間違いなく通報騒動が起きるであろう。
この騒動は恐らく、2chを中心として行われることになる。
「【犯罪】はちま寄稿による著作権侵害を通報するスレ Part15」
「犯罪者やらおん管理人の著作権侵害を通報しよう Part8」
みたいな感じで盛り上がるんじゃないかと。
2chでは通報用のテンプレが出来上がり、多数の通報を引き起こすだろう。
警察は通報を相手にしない?
上記の騒動が起きることは確実であると私はみているが、重要なのは通報が事件に発展するかどうかであろう。
警察は、ストーカー被害を相談しても、恐喝にあった、窃盗の被害にあったと相談しても、あまり熱心に対応してくれないという話はよく聞く。
だから、こんな一般人の著作権侵害に関する通報にもまともに対応しないのではないかと思うのはもっともだ。
犯罪予告
しかし、犯罪予告はどうだろう。
大抵は実際の被害などまず出ない。
さらに、通報は殆どの場合はネットの一般人によってなされている。
にも関わらず、逮捕された犯罪予告者は枚挙にいとまがない。
これはなぜかというと、
- 犯罪の証拠が明白に存在する
- 犯人が明白に特定できる
の2点を満たすからだと考えられる。
恐喝や窃盗については、明白な証拠、犯人を特定できる根拠が無ければ警察は熱心に捜査をしない。
それが無いまま捜を行っても徒労に終わる可能性があるからだ。
ストーカー被害については、そもそも犯罪が成立する段階に進んでいないと、警察としては動きようがない。
このような警察の問題点は別の議論に譲るとして、ポイントは「確実に有罪にできるかどうか」であろう。
この点で、犯罪予告は基本的に「明白な証拠」がある時点でスタートしている上に、「明白な犯人」もほぼ特定できる。
(だからこそ、この方程式を崩した「パソコン遠隔操作事件」は大きな事件だった)
犯罪予告と著作権侵害
これと同様なことが、著作権侵害画像にも言えないだろうか。
東京五輪エンブレムのように、「似ている」だけの問題については、通報があっても警察は動かない可能性も高い。これは、「犯罪の明確な証拠」があるとは言えないからだ。
しかし、ネット上の多くのサイト・ブログは、著作物をそのまま画像として貼り付けていることが非常に多い。
これは、「犯罪の証拠が明白に存在する」という要件を満たす。
また、犯罪予告と同様に、「犯人が明白に特定できる」も満たす。
さらに、多くが2chなどに書き込まれる一回性の犯罪であるがゆえに「遠隔操作」の可能性もありえる犯罪予告と異なり、著作権侵害については本人がその記事を削除せずに活動を続けている以上、遠隔操作などの弁は通用しづらい。
結論としては、警察が動かない他の事例と異なり、警察としては「確実に勝てる」案件であるし、動く可能性は高いだろう。
非親告罪化への「備え」
現在のTPP交渉では、まだ「非親告罪化」が確定したわけではないし、各国に「例外事項」を設ける可能性についても話し合われている。
よって、しばらくはまだネット上での影響は見られないだろう。
しかし、これがTPPが進行して非親告罪化が確定し、さらに非親告罪化の施行日が確定したら、その段階で有名ブログの画像が大量に削除されることが考えられる。
「はちま起稿」、「オレ的ゲーム速報@刃」、「やらおん」について言及したが、恐らくこのブログについては、TPPが成立し、犯罪が成立するようになる前の段階で著作物削除を行い、通報を回避することになると思う。
悪質なサイトほど、悪知恵が働くものだ。
だから、実は非親告罪でもっと注目すべきは、通報で逮捕者が出ることもそうだが、大量のネットリソースである著作物画像が削除されること、そして著作物画像のアップロードがされなくなることだ。
現在のネット文化の多くが崩壊し、再編を余儀なくされることは確実と思われる。
以上。